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6つのテーマ

プロローグ:建築家 安藤忠雄

稀代の建築家、安藤忠雄のすぐれた感性と行動力は、いかにして育まれたのか。そのエネルギーの源は何なのか。ここでは、建築家となる以前に世界放浪をした際の旅のスケッチや、数回の増改築を経たアトリエの建物の変遷などにより、安藤忠雄の活動歴を紹介。さらに、安藤のデスクのある現在のアトリエの一部を、原寸大で再現。建築家の日常に迫ります。

  • 1965年, 横浜港にて、世界放浪に向かう

    1965年, 横浜港にて、世界放浪に向かう

  • 1969年, 大阪で事務所をスタートした28歳の時

    1969年, 大阪で事務所をスタートした28歳の時

  • 大淀のアトリエII 模型

    大淀のアトリエII 模型

原点/住まい

安藤忠雄にとって、人間の「住まう」という最も根源的な営みを受け止める住宅こそが、建築の原点です。その作品の展開の中で、打ち放しコンクリート、単純な幾何学的造形、自然との共生といったキーワードに象徴される、安藤建築の原型は完成しました。初期の代表作から近年の圧倒的スケールの海外作品まで――住まいを通じて建築とは何かを問う、安藤忠雄の挑戦は今なお続いています。

  • 住吉の長屋, 大阪市, 1975-1976
  • 小篠邸, 兵庫県芦屋市, 1979-1981/1983-1984
  • 城戸崎邸, 東京都世田谷区, 1982-1986
  • 六甲の集合住宅 I, II, III, 兵庫県神戸市, 1978-1983 / 1985-1993 / 1992-1999
  • シカゴの住宅, アメリカ・シカゴ, 1992-1997
  • 大淀のアトリエ・アネックス, 大阪市, 1994-1995
  • 4x4の住宅, 兵庫県神戸市, 2001-2003
  • スリランカの住宅, スリランカ・ミリッサ, 2004-2008
  • マリブの住宅 III, アメリカ・マリブ, 2006-2012
  • 靭公園の住宅, 大阪市, 2007-2010
  • ボスコ・スタジオ&ハウス, メキシコ ・オアハカ, 2011-2014

極限までそぎ落とされたようなシンプルな造形。その無地の「カンヴァス」に光や風といった自然の息吹が映し出されることにより、安藤忠雄の目指す空間が生まれます。その意図がもっとも端的に現れているのが、一連の教会作品といえるでしょう。風、水、光、地中――それぞれに異なるテーマを与えられた建築作品の内に、それぞれに異なる光の空間が息づいています。

  • 六甲の教会, 兵庫県神戸市, 1985-1986
  • 水の教会, 北海道占冠村, 1985-1985
  • 光の教会, 大阪府茨木市, 1987-1989
  • ユネスコ瞑想空間, フランス パリ, 1994-1995
  • 森の教会, 韓国 驪州, 2011-2015
  • 広尾の教会, 東京都渋谷区, 2012-2014

余白の空間

自らを「都市ゲリラ」と称した安藤忠雄が、都市において一貫して試みてきたのは、意図的に「余白」の空間をつくりだし、人の集まる場を生み出すことでした。その挑戦精神は、初期の小規模な商業建築から、「表参道ヒルズ」、「東急東横線 渋谷駅」、「上海保利大劇院」といった2000年以降の作品まで、変わることなく息づき、安藤忠雄ならではの個性的な都市建築の系譜が編まれています。

  • TIME’S I, II, 京都市, 1983-1984 / 1984-1991
  • 中之島プロジェクト II(アーバン・エッグ+地層空間), 大阪市, 1988-
  • 大谷地下劇場計画, 栃木県宇都宮市, 1995-
  • ピューリッツァー美術館, アメリカ・セントルイス, 1995-2001年
  • 表参道ヒルズ(同潤会青山アパート建替計画), 東京都渋谷区, 1996-2006
  • 司馬遼太郎記念館, 大阪府東大阪市, 1998-2001
  • 21_21 デザインサイト, 東京都港区, 2004-2007
  • 東急東横線渋谷駅, 東京都渋谷区, 2005-2008
  • 東京大学 情報学環・福武ホール, 東京都文京区, 2005-2008
  • モンテレイ大学 RGSセンター, メキシコ・モンテレイ, 2007-2012
  • 上海保利大劇場, 中華人民共和国 上海, 2009-2014
  • 良渚村文化芸術センター, 中華人民共和国 杭州, 2010-2015
  • GENESIS MUSEUM, 中華人民共和国・上海, 2012-2017

場所を読む

大自然に包まれた立地での安藤建築が登場するようになったのは、1980年代末からでした。以降、世界各地に美しくも力強い、建築による風景の創造がなされています。一貫するテーマは、周辺環境と一体化して、その場所の個性を際立たせるような建築です。その象徴が、30年間余りに及ぶ「直島の一連のプロジェクト」といえるでしょう。マスタープランなきままに、人間とアート、場所の自然風土と対話を重ね、生物が増殖するようにプロジェクトを拡張していった、その稀有の建築のプロセスが、かつての名もなき小島を、世界的なアートの聖地に育て上げる原動力の一つとなりました。

  • ベネッセハウス, 香川県直島町, 1988-1992
  • 地中美術館, 香川県直島町, 2000-2004
  • サントリーミュージアム, 大阪府大阪市, 1989-1994
  • 真言宗本福寺水御堂, 兵庫県淡路市, 1989-1991
  • 大阪府立近つ飛鳥博物館, 大阪府河南町, 1990-1994
  • 淡路夢舞台, 兵庫県淡路市, 1993-1999
  • 大阪府立狭山池博物館, 大阪府大阪狭山市, 1994-2001
  • ホンブロイッヒ/ランゲン 美術館, ドイツ ノイス, 1994-2004
  • 兵庫県立美術館 + 神戸市水際広場, 兵庫県神戸市, 1997-2001
  • フォートワース現代美術館, アメリカ・フォートワース, 1997-2002
  • クラーク美術館 クラーク・センター, アメリカ・ウィリアムズタウン, 2001-2014
  • 絵本美術館, 福島県いわき市, 2002-2004
  • ミュージアム SAN, 大韓民国 江原道 原州市, 2005-2012
  • アートセンター/シャトー・ラ・コスト, フランス エクスアン・プロヴァンス, 2006-2011
  • 真駒内滝野霊園 頭大仏, 北海道札幌市, 2012-2015

あるものを生かしてないものをつくる

安藤忠雄にとって、歴史の刻まれた建物の再生は、常に挑戦心をかき立てられるテーマでした。しかし、ここでいう“再生”とは、単に旧いものを残すことでも、それを新たなものとして塗り替えることでもありません。安藤流“再生”とは即ち、新旧が絶妙なバランスで共存する状態をつくりだすことです。そこに生まれる新旧の対話が、過去から現代、未来へと時間をつなぎ、場に新たな命を吹き込んでいく――安藤忠雄の壮大な挑戦は、グローバルな世界で、今なお進行中です。

  • 大山崎山荘美術館,京都府大山崎町,1991-1995
  • FABRICA(ベネトン・アートスクール),イタリア・トレヴィーゾ, 2000年
  • 国際子ども図書館,東京都台東区,1996-2002
  • ストーン・スカルプチュア・ミュージアム,ドイツ, 1996-2010
  • パラッツォ・グラッシ再生計画,イタリア ヴェニス, 2005-2006
  • プンタ・デラ・ドガーナ再生計画,イタリア ヴェニス, 2006-2009
  • テアトリーノ,イタリア・イタリア ヴェニス, 2012-2013
  • 北菓楼札幌本館,北海道札幌市, 2014-2016
  • ブルス・ドゥ・コメルス,フランス パリ, 2016-

育てる

安藤忠雄が稀代の建築家と呼ばれる理由の一つは、建築という枠組みを超えた社会活動への旺盛な取り組みにあります。完成後の建物の周辺環境整備から、地元大阪でのまちづくり活動、さらには瀬戸内海沿岸、東京湾岸部での環境再生運動……。多岐にわたるそれらの活動の根底にあるのは、「建築をつくること」と「森をつくること」を、同義に考える大胆かつ繊細な感性と、市民をも巻き込む、その壮大な構想を長い時間をかけて実現まで導く、類まれな人間力です。つくり、育てていく――既成の枠組みにとらわれない、安藤忠雄の自由な発想が、建築の新たなる可能性を切り拓きます。

  • ロックフィールド静岡ファクトリー, 静岡県磐田市, 1987-1991
  • 仙川プロジェクト, 東京都調布市, 2002-2012
  • 桜の会・平成の通り抜け, 大阪府大阪市, 2004-
  • さくら広場, 千葉県習志野市 / 大阪府門真市 / 神奈川県茅ケ崎市 / 大阪府豊中市, 2005-2006 / 2005-2006 / 2005-2007/ 2007-2009
  • IPU・環太平洋大学アスリートホール <TOP GUN>, 岡山県岡山市, 2006-2009
  • 海の森プロジェクト, 東京都江東区, 2007-
  • 希望の壁, 大阪府大阪市, 2012-2013
  • 都市の大樹, 大阪府大阪市, 2013-